―REC COFFEEさんと長塚さんでコラボレーションされたのは、何がきっかけだったんですか?
長塚:「ホワイトパーティー」というイベントを福岡の老舗百貨店の岩田屋さんとうちのレーベルのEPISTROPHでさせていただいて。百貨店を全館ジャックしてライブをしたり、飲食店さんとコラボしてブースを出してもらったりするイベントだったんです。その時に福岡でどこか素敵なコーヒー屋さんない?という話になった際にREC COFFEEさんの名前があがって、コンタクトをとらせていただいたのがきっかけです。
岩瀬:REC COFFEEは福岡で2008年に創業して、当時は車にコーヒーマシンをのせたいわゆる移動販売から始まっていて、今では店舗を持って、この店を入れて5店舗になりました。
長塚さんから一緒に何かしたいというお話を頂いたときはすごくびっくりしましたよ(笑)。もちろんコーヒーをイベントで入れることはできるんですけど、それ以外のところで何かコーヒーで表現できたら面白いなと思ったんです。そこでドリップバックをご提案しました。EPISTROPH、そしてWONKの長塚さんとして関わっていただくにあたって、せっかくやるなら!と、EPISTROPHやイベントのイメージに合うような形で長塚さんに味を監修して頂いた感じですね。
長塚:EPISTROPHとしても音楽レーベルだけではなくて、音楽で見出した価値を、例えばアパレルや飲食というような異なるジャンルと絡めていって、一つのカルチャーとして作り上げたいというのが活動の一番の目的なんです。元々僕は飲食経験が長かったこともあって、そのイベントでは別のお店とコラボしてオリジナルサンドイッチを作らせて頂いたりもしましたが、どうしてもコーヒーも作りたくて。REC COFFEEさんがすでに持っているブレンドに、EPISTROPHのロゴをくっつけて販売するだけじゃなくて、自分たちの考えや想いを込めた商品を届けたいと思いました。それで、ちょっと無理を言ってオリジナルブレンドを作らせてもらえないか相談したんですよね。―料理だけでなくコーヒーの知識も、もともとあったんですか?
長塚:コーヒーについてはほぼ素人なので、コンビニで飲むコーヒーとカフェで飲むちょっと高いコーヒーの差も、正直だいたいの味以外はたいして分かっていなかったんですよ。だから豆のことや産地のこと、ブレンドのことを一から教えて頂きました。
―たしかに、コーヒーを日常的に飲んでいて”好きだけど詳しくは分からない”という人も多いように思います。「ブレンドする」っていうのは、具体的にどういう作業なんですか?
―長塚さんはどういう仕上がりをイメージしていたんですか?
長塚:そのイベントの開催時期が、ちょっと暑くてジメッとし始める6月の頃だったということもあって、軽やかで爽やか、かつ華やかなイメージを伝えました。ただ今回のブレンドとしての立ち位置はあくまでバランスが良くアプローチしやすいというところにあったので、そこからは外れてほしくなかったんですよね。ただいい感じにエッジも効かせたかったので、そこのニュアンスがとっても難しかったです。
―岩瀬さんとしては、長塚さんの考えるブレンドはどうでしたか?
岩瀬:お料理をされている背景もあって、素材がコーヒーになるまでの過程にも非常に興味を持っていただいて。そこからインスピレーションを膨らませているのが印象的でしたね。味だけで決めたというよりは、背景やストーリーも大事にされていたので、意思疎通がとてもスムーズでした。想像しやすかったというか。やっぱりEPISTROPHさんのやっている活動とかWONKさんの音楽性とリンクしたんだと思います。ブレンドって、元々は“品質がよくないものの欠点を補って隠しあう”というのが始まりなんですよ。ですが、それぞれの豆の特徴をボジティブに捉えて肉付けしていったので、ブレンド作りはそこが非常にクリエイティブなんです。今回は、アーティスティックなブレンドって感じですかね。僕としても面白かったです。
―コーヒーが詳しくない人にも、具体的に伝えるとすると、どんな味なんでしょう?
岩瀬:エチオピアのアクセントを大事にしながら、作り込んでいきました。直接的に表現すると、プロファイルでいえば、チョコレート、ブラウンシュガー、オレンジもあるし、ブルーベリーもちょっと。言ってしまえば、ワインっぽいのかもしれません。
長塚:確かに、ブルーベリーはすごく分かりやすいですよね。
―お客さんのリアクションはどうでしたか?
岩瀬:反応よかったですね。ドリップコーヒー以外に、エスプレッソ抽出もしましたし、水出しもしたんですが、どの抽出方法で出してもバランス良く、個性が出ていたなと。
―長塚さんは、初めてコーヒーをプロデュースしてみて、何か感じたことはありました?
長塚:あらためて日常で飲むコーヒーの感じ方が変わりました。例えばコンビニの100円のコーヒーも、お店ごとに味って全然違うんですよね。でも、ほとんどの人が全然意識せずに飲んでいる。分からないというよりは、興味が向いていないのかもしれません。違いは絶対に感じているはずなので、そこに着目したり、興味を持つかどうかってとても大事だなと思いました。僕もまだ全然偉そうなことは言えないんですけど、なんとなくの感覚でも違いを楽しめるようになったのは自分の人生の中ですごく有益なことでした。なんでもそうですけど、膨大な量の情報が入ってきて過ぎ去っていく現代だからこそ、物事と丁寧に向き合うことは、生活を豊かにしてくれる。そういったことの、すごく身近な例だと思います。
長塚:自分の生活に存在しているひとつひとつ、全部を分かろうとしなくていいから、興味を持って欲しいなって思うんですよね。日常的にカフェ行く機会ってめっちゃ多いじゃないですか。だからこそ、そこで飲むドリンクやコーヒーに対して意識を向けるだけで、より有意義な時間になるんじゃないかなと思います。
―今回の記事がそのきっかけになったらいいですね。岩瀬さんは、コーヒーの楽しみ方についてどう思われますか?
岩瀬:コーヒーには答えがないんですよね。何が一番おいしいかという定義があるわけでもない嗜好品ですし、お客さんによって全く好みも違う。だからコーヒーに詳しくなってもらうのはもちろん僕らとしても非常に嬉しいことです。でも無理して我慢して飲むものではないので、自由に楽しんでもらうのが一番ですね。僕らの売っているものってコーヒーなんですけど、それをより楽しくするための感動を売っているという自覚があります。そういう意味では、音楽やアートの活動に親和性も感じるんです。それに、コーヒー好きな人と音楽好きな人っていうのは価値観が交わるんですよ。だからWONKさんの音楽が好きな人は、今回作ったブレンドも好きだと思いますよ。
長塚:食の開発に関してはこれまでレストランでやってきているし、自分が作ったものがお客さんの口に届くという経験はこれまでもありました。でも、音楽をやっている一人としての立場や想いも含めた商品開発は初めてで。やってみて、見えた部分がたくさんあります。もっといろいろ作りたいなって思いました。
岩瀬:そんなふうに捉えてもらえて私たちも嬉しいです。今後ともよろしくお願いします。